土居 可弥
ALLEXに参加した動機
ALLEXのプログラムに参加したのは、国際基督教大学(ICU)を卒業した直後でした。専攻はメディアコミュニケーションと文化論でした。通訳と翻訳の分野に特に力を入れて勉強しました。
その当時、私は大学院への進学を考えていました。すると、ICUの先生がALLEXプログラムを勧めてくれました。先生によると、アメリカではまず数年社会に出て働いてから大学院に進む人が多いため、特にアメリカの大学院に進学したい場合は、一旦働く経験を積んだ方が良いとのことでした。通訳・翻訳以外に、教育の道に進むことにも興味がありました。ALLEXへの参加は、語学教育のアシスタントを務め、教育職が自分に合っているかどうか確かめるいい経験になるだろうと思いました。大学を卒業したばかりで、まだ学生の気持ちが理解できる気もしたので、タイミング的にもぴったりでした。
夏期教育研修プログラム
夏期研修プログラムは本当に素晴らしいものでした。私が楽しいと思ったのは、様々なバックグラウンドを持つ人々と出会えた点です。他の日本語教師だけでなく、中国語や韓国語の先生にも出会うことができました。生活を共にして、一緒に授業を受け、授業以外でも共に時を過ごせた点が非常に良かったです。その人たちとは、今でも連絡を取り合っています。また、他のプログラム受講者の授業の学生役になるのも楽しかったです。他の言語を学び、その言語がどのように教えられているか見る機会もありました。
この研修プログラムが役に立ったのは間違いありません。先生方だけでなく、他の受講者が教える様子も見学できて、自分の教え方を改善するための数多くのヒントが得られました。他の人の教え方を見て、自分の授業について先生方と他の受講者からフィードバックがもらえたのは、実り多き経験でした。さらに、パフォーマンスに基づいた教授法を学んだのは、私にとって初めてでした。正直なところ、夏期研修プログラムの終盤になっても、自分が教えるのはまだ早いという気がしていました。でもそれは、主には自分に自信が無かったからだと思います。研修では、様々な状況の下で緊張を克服する練習もさせてもらいました。授業準備から授業本番、授業後の振り返りまでのそれぞれの段階で、自信を失わない術を学ぶことができました。研修を受けたことで、ウェルズリー大学で教えるための準備を万全に整えられ、教える意欲が確実に高まりました。
ALLEXに参加することの利点
ALLEXプログラムを絶対にお勧めします。パフォーマンスを基盤にした教授法では、話す相手が理解できる言葉のみ使って話します。そのため、話す相手が何を知っていて、その人の現在の言語習得レベルでわかってもらうにはどのように伝えればよいか、しっかり考える必要があります。この考え方は、人生の他の場面においても大切なことだと思います。相手にわかりやすく伝えることをより意識する術を学ばせてもらいました。ですから、たとえALLEXを卒業して別の職種の仕事に就くことになっても、他者を理解しコミュニケーションを図ることはきっと役に立つでしょう。
個人的にも、このプログラムは非常に大切でかけがえのないものでした。私は日本で生まれましたが、2歳の時に海外に引っ越しました。実際のところ、日本よりも海外に住んだ期間の方が長いです。母語であるはずの日本語に苦労することが時々あります。自分の日本語力に自信が持てない部分が常にあって、自分のアイデンティティが揺れ動いていました。自分自身が日本語で苦労した経験があるため、学生たちが日本語を学ぶ時の気持ちが理解できるような気がしました。ALLEXを通じて、日本語を教える機会が得られました。それは、日本語を含めた言語を完璧に扱えないことに慣れるという点でも、私にとって良い経験になりました。この新しい自己表現法を学生たちと共有できたのも楽しい思い出です。
ALLEXのおかげで、日本文化と日本語についてじっくり考える機会が得られました。海外の教科書や世界観で日本がどのように描かれているか、さらに日本に対してどういったステレオタイプが存在しているのかについて、考えさせられました。人は時に「これはとても『日本的』だ」とレッテルを貼ります。ALLEXで得た経験を通じて、こうしたレッテルを分析し、人にそう言わせる原因について考える機会をも与えてもらいました。ALLEXに関わる人なら誰でも、偏見やステレオタイプの存在への理解を促す役割を果たせるはずです。同時に、自分自身が抱く偏見やステレオタイプを客観視することもできます。
ALLEX卒業後の進路
ALLEXでの留学中に、私は通訳と翻訳を学ぶために大学院に進学する意思を固めました。プログラム修了後には、ミドルベリー国際大学院モントレー校に進学して修士号を取得しました。卒業後は、通訳兼翻訳者としてパナソニックで働いています。
ALLEXでの経験を振り返ってみて、いい思い出が数多くあります。年度末に学生たちが寸劇を披露し、一緒にとても楽しく過ごしたことを覚えています。学生たちは非常に創意工夫にあふれた発表をしてくれました。誰もが笑って楽しい時間を過ごしていました。学生たちの学習の成果を寸劇という形で見られて、とても良かったです。
いい思い出が多すぎて、1つだけを選ぶことはできません。全般的に大変良い経験になりました。実に素晴らしかったです。